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「正論」がバズらない理由:なぜSNSでは『政策』より『感情』が勝つのか?

「正論」がバズらない理由:なぜSNSでは『政策』より『感情』が勝つのか? 記事
「正論」がバズらない理由:なぜSNSでは『政策』より『感情』が勝つのか?

選挙期間中や大きな政治イベントがあるとき、あなたのSNSのタイムラインには何が流れてきますか?

緻密なデータに基づいた「税制改革案」のPDFリンクでしょうか? それとも、候補者が対立候補を強い言葉で罵倒する「論破動画」や、特定の誰かを悪者にしたてあげる「怒りの投稿」でしょうか。

おそらく圧倒的に後者のはずです。

「最近の有権者は不勉強だ」「民度が低い」と嘆くのは簡単です。しかし、マーケティングと脳科学の視点で分析すると、これは個人の資質の問題ではなく、「人間の脳のバグ」と「SNSの構造」が見事に噛み合った結果であることがわかります。

今回は、なぜSNSという空間では、精緻な政策論争よりも、感情的な「物語(ナラティブ)」や敵を攻撃する「スカッとする言葉」が拡散されるのか。その残酷なメカニズムを解剖します。


1. 脳は「政策」を拒絶するようにできている

まず、残酷な事実からお伝えします。人間の脳は、本能的に「政策」を嫌います。

行動経済学の権威ダニエル・カーネマンは、人間の思考モードを2つに分けました。

  • システム1(速い思考): 直感的、感情的、自動的。エネルギーをほぼ使わない。
  • システム2(遅い思考): 論理的、計算的、意識的。エネルギーを大量に消費する。

「消費税の軽減税率の是非」や「外交安全保障の条文」を理解するには、システム2をフル稼働させる必要があります。これは脳にとってカロリーを消費する「苦痛」を伴う作業です。スマホをリラックスして眺めている時に、わざわざ苦痛を感じたい人はいません。

一方で、「あいつは悪だ!」「日本が危ない!」といった単純な「物語」「攻撃」は、システム1で処理できます。 脳は「省エネ」を好みます。その結果、カロリーを使う高尚な議論は無意識にスルーされ、カロリーを使わない感情的な煽りだけが、脳のフィルターを通過して心に刺さるのです。

2. 「怒り」は最強の拡散エンジンである

次に、マーケティング心理学の視点です。 人はどのような感情のときに「シェア(拡散)」ボタンを押すのでしょうか?

ペンシルベニア大学の研究などによれば、人は心が穏やかな時(満足感や悲しみ)には行動を起こしません。逆に、「怒り」や「不安」といった覚醒度(テンション)が高い状態になった時、そのエネルギーを発散するためにシェアボタンを押すことがわかっています。

ここに、「スカッとする言葉」の罠があります。

政治的な対立候補や、自分と異なる思想の持ち主を攻撃する言葉は、読み手に強い「怒り」を喚起させると同時に、それを叩くことで「正義は我にあり」というドーパミン(快感)を与えます。

つまり、SNSでの攻撃的な投稿は、政治活動というよりも「エンターテインメント(娯楽)」として消費されているのです。 「政策の正しさ」を広めたいのではなく、「敵を叩いてスカッとした気分」を共有したい。この欲求の前では、地味な政策論争などひとたまりもありません。

3. アルゴリズムは「争い」を望んでいる

最後に、プラットフォーム(XやYouTubeなど)側の事情です。 彼らのビジネスモデルは「広告モデル」であり、目的は「1秒でも長くアプリを開かせておくこと」です。

みんなが納得して「そうだね」と終わる冷静な議論は、すぐに完結してしまい、ユーザーはアプリを閉じてしまいます。 しかし、感情的な罵り合いや、終わりのない論争は、ユーザーを画面に釘付けにします。

これを「Enrage to Engage(激怒させて、エンゲージさせる)」と言います。

アルゴリズムは道徳を持っていません。ただ機械的に、「論争が起きている投稿=滞在時間が伸びる優良コンテンツ」と判断し、さらに多くの人の目に触れるように拡散します。 私たちが画面の向こうで怒り狂えば狂うほど、プラットフォームにはチャリンチャリンと広告費が落ちる仕組みになっているのです。

結論:私たちは「システム」の上で踊らされている

  • 複雑なものを避けたい「脳の省エネ本能」
  • 怒りと快感をシェアしたい「心理的欲求」
  • 争いを金に変える「アルゴリズム」

この3つが揃っている以上、SNSで「感情」が「政策」に勝つのは必然です。

政治家やマーケターもこの仕組みを熟知しています。だからこそ、彼らはあえて政策を語らず、敵を作り、短い言葉で煽るのです。それが「勝てる戦略」だからです。

では、私たち有権者はどうすればいいのでしょうか?

タイムラインで「スカッとする攻撃的な投稿」を見かけたとき、シェアボタンを押す前に一度だけ深呼吸してみてください。 「あ、今自分はドーパミンが出ているな。これは『思考』ではなく『反応』させられているな」 そう気づくことこそが、現代における最も重要な「政治リテラシー」なのかもしれません。

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