「現役世代は政治的に冷遇されている」「将来世代が犠牲にされている」 SNSやニュースのコメント欄、あるいは職場の休憩時間、こうした溜息混じりの声を耳にしない日はありません。しかし、いざ選挙が終わってみれば、その不満が政治の景色を劇的に塗り替えた形跡は、残念ながらほとんど見当たらないのが現実です。
なぜ、私たちの声は届かないのでしょうか? 私たちが政治に無関心だからでしょうか。それとも、単なる勉強不足なのでしょうか。
結論から言えば、そのどちらでもありません。日本の選挙制度と社会構造そのものが、現役世代が「勝てない」ように、もっと言えば「勝ちにくい」ように精巧に組み上げられているからです。
本記事では、現役世代が直面している「見えない壁」の正体を解き明かし、その上で私たちがどう動くべきかを探ります。
1. 人口構成と投票率という「見えない壁」
まず直面するのが、圧倒的な「数」の論理です。 日本はすでに超高齢社会に突入しています。60歳以上の人口比率は4割近くに達し、しかもこの層は非常に高い投票率を維持しています。
一方で、20代から50代の現役世代は、人数そのものでは決して「極少数派」ではありません。しかし、投票率が低い。選挙において政治家が恐れるのは、国民の数ではなく「票の数」です。
影響力 = 人口 × 投票率
この数式に当てはめたとき、現役世代はスタートラインに立った瞬間から、数倍のハンデを背負った不利な勝負を強いられているのです。
2. 「現役世代」は、一枚岩ではない
高齢層の政治的要求は、比較的シンプルで明確です。年金、医療、介護、そして生活の安定。これらは多くの高齢者に共通する関心事であり、政治家にとってもメッセージを一本化しやすいという特徴があります。
対して、現役世代はどうでしょうか。
- 働き方の違い:正社員か、非正規か、フリーランスか。
- 家族構成の違い:子育て世帯か、独身層か、あるいは親の介護を抱えているか。
- 居住地の違い:インフラ整備を求める地方か、合理化を求める都市部か。
同じ「現役世代」という括りの中でも、置かれている立場や利害はバラバラです。結果として、政治的要求は分散し、一つの大きなうねり(投票行動)になりにくい。この「内部の多様性」が、政治的なパワーを削いでしまう要因となっています。
3. コストとリターンの「非対称性」
現役世代が政治から距離を置きがちなのは、決して無関心だからではありません。むしろ、非常に「合理的」な判断の結果だと言えます。
現役世代にとって、政治がもたらす影響はタイムラグが大きすぎます。
- コスト(負担):税金や社会保険料の増額は「今すぐ」やってくる。
- リターン(恩恵):少子化対策や成長戦略の成果が出るのは「数年〜数十年後」。
生活に余裕のない現役世代にとって、今すぐ払わされるコストに対して、いつ戻ってくるか分からないリターンは投資として成立しにくいのです。一方、高齢層にとっての政策(給付や医療サービス)は、即効性のあるリターンとして機能します。 この政治参加におけるコストとリターンの非対称性が、現役世代の足を遠のかせています。
4. 組織票という「旧来型エンジン」への最適化
日本の選挙制度(小選挙区制・比例代表制)は、個人のふんわりとした共感よりも、確実に票を積み上げられる「動員力」を重視します。
- 宗教団体
- 労働組合
- 特定の業界団体
これらの組織は、高い投票率を安定的に確保できる強力なエンジンです。一方で、ネットを中心とした現役世代の緩やかな支持や世論の盛り上がりは、熱量は高くても、投票日当日に「確実に票を入れる」という行動に変換されにくい性質があります。 現役世代は「声」は大きくできても、それを政治家を動かす「弾丸(票)」に変えられない構造の中にいるのです。
5. 「政治の言語」のミスマッチ
現在の日本の政治は、いまだに地上波テレビを中心とした「情緒的なスローガン」が支配しています。 しかし、情報感度の高い現役世代が求めているのは、耳ざわりの良い言葉ではなく、具体的な「数字」「トレードオフ(何を選んで何を捨てるか)」「将来の設計図」です。
ところが、こうした誠実でロジカルな説明は、選挙の現場では「冷たい」「厳しい」と敬遠される傾向にあります。現役世代が納得できるようなまともな議論をする候補者ほど、大衆迎合的な候補者に敗れてしまうという「逆転現象」が起きているのです。
6. 現役世代が抱える最大の弱点:完璧主義
これが最も致命的なポイントかもしれません。現役世代は、政治や政党に対して「100点満点の正解」を求める傾向が強い。
- 自分の考えと少しでも違うと、支持を引っ込める。
- 政策の一部に妥協が見えると、「裏切りだ」と断罪する。
一方、長年社会を見てきた高齢層は、たとえ3割の不満があっても「7割一致していれば、今を守るために投票する」というリアリズムを持っています。 選挙は理想を競い合うコンテストではなく、不完全な選択肢の中からマシなものを選ぶ「消去法」のゲームです。このルールの理解度と適応力の差が、最終的な勝敗を分けています。
7. それでも、突破口はあるのか
絶望的な状況に見えるかもしれませんが、構造を揺らすチャンスは残されています。
鍵となるのは、世代で区切る対立構造ではなく、「負担者」という新しい軸での再編です。 現役世代だけでなく、子育て世帯、そして「このままでは自分の孫の代が危ない」と考える改革志向の高齢層を巻き込んでいく。そして、争点を「社会保障と税の世代間再設計」という、避けて通れない一点に凝縮することです。
私たちは、「完璧を捨て、妥協を引き受け、それでも投票行動を継続する」という粘り強さを持たなければなりません。
おわりに
現役世代が選挙で勝てないのは、私たちが怠惰だからでも未熟だからでもありません。 ただ、圧倒的に勝ちにくいルールの中で、まだ「勝ち方」を選び切れていないだけなのです。
あなたが日々感じている怒りや違和感は、社会の歪みを正確に見ている証拠です。その感覚を、一時的な愚痴で終わらせるのか、それとも戦略的な行動に変えるのか。 その一歩が、次の世代に手渡す未来の形を決めることになるはずです。





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