現代の選挙戦において、SNSは単なる「広報ツール」から、勝敗を決する「戦略的兵器」へと進化しました。本記事では、政治マーケティングの観点から、アメリカ大統領選におけるSNS活用の変遷を3つのフェーズに分けて分析し、その本質的な変化を読み解きます。
1. 黎明期:2008年「草の根のデジタル化」
SNSが初めて選挙結果を左右したのが、バラク・オバマ氏が初当選した2008年選挙です。
- 主なプラットフォーム: Facebook(初期)、YouTube、MySpace
- 戦略の核: 「ボトムアップ型の組織化」
- 分析: 当時のオバマ陣営は、SNSを「資金調達」と「ボランティアの組織化」に活用しました。それまでのテレビCMによる一方的な情報伝達(プッシュ型)から、双方向のコミュニケーションによるコミュニティ形成へとシフトした、政治マーケティングの大きな転換点です。
閑話休題。
この頃は日本では MixiやGreeがとても流行っていました。
アメリカではMySpaceがとても盛り上がっており、筆者の米国の同僚はMySpaceで結婚相手を見つけたそうです。趣味や考えなどが一致する人を探すというのは万国共通ですね。

(参考: MySpace の UI)
2. 激変期:2016年「マイクロターゲティングの衝撃」
ドナルド・トランプ氏が勝利した2016年選挙では、データの活用方法が劇的に変化しました。
- 主なプラットフォーム: Facebook(広告)、Twitter(現X)
- 戦略の核: 「マイクロターゲティング」と「アテンション・エコノミー」
- 分析: ユーザーの属性や行動履歴に基づき、個別に最適化された広告を配信する「マイクロターゲティング」が本格化しました。また、トランプ氏はTwitterを直接的な発信手段として使い、既存メディアを介さずに有権者の「感情(アテンション)」を掴む手法を確立しました。
2016年の大統領選を語る上で避けて通れないのが、ケンブリッジ・アナリティカ事件です。同社は、Facebookから不正に取得した最大8,700万人分の個人データを利用し、有権者の性格(サイコグラフィック・プロファイリング)を分析。個々の心理的弱点を突くような「ダーク・ポスト(特定のターゲットにしか見えない広告)」を大量に配信しました。
- 政治マーケティングへの影響: 単なる「属性(年齢・居住地)」ではなく、「性格(神経質か、外交的か等)」に基づいた超・個別最適化が可能であることを証明してしまいました。
- 規制の始まり: この事件をきっかけに、世界中でGDPR(欧州一般データ保護規則)をはじめとする個人情報保護の機運が高まり、GoogleやMetaも政治広告の透明性レポートを公開せざるを得なくなりました。
現代の政治マーケターには、テクノロジーを駆使する「スキル」だけでなく、それをどう正しく使うかという「倫理観(エシカル・マーケティング)」がこれまで以上に問われています。
この事件が明るみに出た後、米国では多くの検証番組がテレビで放映されました。とても怖い内容だったことを今でも覚えています。
3. 成熟・複雑化:2024年「アルゴリズムとAIの戦い」
最新の選挙戦では、単純な投稿数よりも「アルゴリズムへの最適化」と「新技術の攻防」が焦点となっています。
- 主なプラットフォーム: TikTok、Instagram Reels、YouTube Shorts
- 戦略の核: 「ショート動画」と「AI生成コンテンツ」
- 分析: * タイパ重視の戦略: 1分以内のショート動画で、政策よりも「イメージ」や「親近感」を瞬時に植え付ける手法が主流です。
- AIの影響: ディープフェイクやAI生成された画像・動画が、世論形成にポジティブ・ネガティブ両面で影響を与えています。
政治マーケティング的考察:日本への応用可能性
アメリカの事例から学べるのは、「技術の導入」よりも「有権者の行動心理の変化」を捉える重要性です。
日本においても、単にSNSアカウントを運用するだけでなく、以下の3点が今後の鍵となると考えられます。
- データの健全な活用: プライバシーを守りつつ、いかに有権者のニーズに刺さる情報を届けるか。
- ファクトチェック体制: 偽情報(ディスインフォメーション)への対抗手段。
- 双方向性の担保: ネットを「放送」ではなく「対話」の場として機能させること。
出典・参考文献:
この記事は、
ソーシャルメディア上の政治的やり取りが、ユーザーにどんな心理的負担や行動変化をもたらしているか
を調査したレポートです。
2016年のレポートですが、2025年に読んでも興味深いですね。
主なポイント
1. 多くのユーザーは政治的投稿に「疲れている」
- 37% が政治的投稿の量に「疲れた」と回答
- 「多いのが好き」:20%
2. 政治的対立のやり取りはストレス
- 59%:反対意見の相手とのやり取りは「ストレス・不快」
- 35%:逆に「興味深い・学びがある」と感じる層も存在
3. SNSの政治議論は“現実より攻撃的”と感じている
- 40%:SNSでは「対面では言わないような攻撃的発言」が多い
- 約半数:政治議論は「より怒りっぽく・非礼・非文明的」と感じている
4. ユーザーの行動:基本は“スルー”、限界が来たらミュート・ブロック
- 83%:意見が合わない投稿は「無視する」
- 31%:政治理由で「設定変更(ミュートなど)」
- 27%:「ブロック・解除」
5. 政治に強い関心がある人は、SNS政治議論を“楽しんでいる”
- 政治的関与が強い層は
- 発言頻度が高い
- SNSを「新しい声を政治に取り入れる場」と評価
6. 党派(民主・共和)でSNSの使い方は大きく変わらない
- 疲れている割合 → ほぼ同じ(民主38%、共和37%)
- ただし民主党支持者の方がSNSを政治参加に使う傾向がやや強い
7. Facebook と Twitter の違いはあるが、政治投稿の多さはほぼ同じ
- Facebook → 友人中心
- Twitter → 知らない人を多くフォロー
- それでも政治的投稿の量や議論の頻度はほぼ同じ
🧩 総括
SNS は政治参加を促す一方で
分断・攻撃性・ストレスが高まる場になっている
という、相反する感情と行動が同居していることを示す調査です。




